米澤穂信先生の新作「本と鍵の季節」を読んだので感想を書いていきます。今作はシリーズ物ではない単発作品で、高校の図書委員である堀川次郎と松倉詩門がいくつもの謎を解いていく青春ミステリ作品になっています。
目次
あらすじ
堀川次郎は高校二年の図書委員。利用者のほとんどいない放課後の図書室で、同じく図書委員の松倉詩門(しもん)と当番を務めている。背が高く顔もいい松倉は目立つ存在で、快活でよく笑う一方、ほどよく皮肉屋ないいやつだ。そんなある日、図書委員を引退した先輩女子が訪ねてきた。亡くなった祖父が遺した開かずの金庫、その鍵の番号を探り当ててほしいというのだが……。放課後の図書室に持ち込まれる謎に、男子高校生ふたりが挑む全六編。爽やかでほんのりビターな米澤穂信の図書室ミステリ、開幕!
引用元: Amazon
作品のあらすじを読んだ段階では、こういう青春モノを書くなら気になるところで途切れている既存シリーズを完結させてくれよ!とか思ったんですけど、読み終えてからアマゾンレビューを見たら、本作は2012年~2018秋まで連載されていた短編に書き下ろし短編を加えたものとわかり驚きました。
短期間で書いた作品ならともかく、長期間掛けて書いた作品なのに内容はしっかり筋が通っていて、序盤から終盤まで全部のストーリーが繋がっている。
自分だったらそんなに時間を掛けたら文章の書き方が序盤と終盤で変化してしまうと思うんですけど、作品を読んでいる最中にそういう違和感は全く感じませんでした。これはつまり、「本と鍵の季節」は時間を掛けて、内容を練って練り尽くした作品ということです。
実際、本作は完成度が非常に高く、ストーリーに無駄がまるでありません。堀川と松倉の軽快な会話と絶妙な距離感。2人の推理・価値観の違いを上手くラストの落ちに持っていったという印象です。
ヒロイン不在による効果
読んでいて気になったのはヒロインがいないこと。これは米澤穂信が書く青春ものにしては珍しい人物配置です。
単に雑誌掲載の短編ということでそういうところを硬派にしたのかもしれませんが、これはこれでメインの2人の関係性を深く掘り下げるのに役立っていたと思います。
癒やし要素は少なかったですが、その分、推理については腰を落ち着けてじっくり考察できる作品でした。
舞台設定はあえて語られない?
米澤作品では作品の舞台となっている街や国について事細かく語ることが多いです。
例えば「王とサーカス」ではネパールの特色をこれでもかと描写していましたし、代表作の「さよなら妖精」はヒロインの故郷がどこなのかが話の主軸になっていました。
しかし、今作では東京都八王子市が舞台になっていることがわかるだけで、街にどのような特色があるのだとかは語られません。
これはこの物語を特別ではない、どこにでもありそうなお話にしています。意図的に「普通」にしているというか、本当の意味での誰にでも起きうる「日常の謎」と言いますか。
ヒロイン、舞台設定、こういった味付けを削ぎ落とすことで「本と鍵の季節」は物語の輪郭をより濃くしているのかもしれません。
米澤穂信の作品を初めて読む人にオススメの一冊
米澤作品はかなりの数がありますが、本作はその中でもかなり取っ付き易い部類の作品です。友達に米澤穂信作品を紹介するのに、「本と鍵の季節」はほどよくコンパクトで、それでいて作家性も伝わる良い作品だと思います。
最後に
米澤作品は氷菓にハマって以来ずっと読み続けているわけですが、やはり青春ミステリジャンルは安定の面白さと読みやすさですね。
ただ、「王とサーカス」みたいな異国ものや、ファンタジーに振り切った「折れた竜骨」のような作品も良いんですよ。どっちも舞台設定が凝っていて想像が膨らみます。
今回の「本と鍵の季節」はそういう舞台設定はあえて薄くした感じでしたが、次回作ではもっと濃い舞台描写が読みたいですね。
コメント
最近は同性同士のコンビが流行っている、というか若者に好まれやすいから、ある意味時代にあっている采配だと思った。