『読書』Iの悲劇 米澤穂信の新境地は市役所ミステリーだった

発売の一週間前に米澤穂信の新刊が出ると知って、kindleの配信直後に一気読みしました。(0時配信だったから一度睡眠を挟みつつ)

今作もかなり面白かったです。前作の「本と鍵の季節」は自分が特に好きな学園ミステリーでしたが、今回は市役所モノ、しかも町おこしを中心にした話でした。

あらすじ(amazonの紹介文より)
 
一度死んだ村に、人を呼び戻す。それが「甦り課」の使命だ。
『満願』『王とサーカス』で史上初の二年連続ミステリランキング三冠を達成した著者が放つミステリ悲喜劇!
 
山あいの小さな集落、簑石。
六年前に滅びたこの場所に人を呼び戻すため、Iターン支援プロジェクトが実施されることになった。
 
業務にあたるのは簑石地区を擁する、南はかま市「甦り課」の三人。
人当たりがよく、さばけた新人、観山遊香。
出世が望み。公務員らしい公務員、万願寺邦和。
とにかく定時に退社。やる気の薄い課長、西野秀嗣。
 
彼らが向き合うことになったのは、一癖ある「移住者」たちと、彼らの間で次々と発生する「謎」だった――。
 
徐々に明らかになる、限界集落の「現実」、そして静かに待ち受ける「衝撃」!

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住民たちのクレームに頭を悩ませる親しみやすい主人公

読み始める前は市役所が舞台だし堅苦しい話になるのかなーと思っていたんですけど、実際はかなり読みやすい内容でした。

これは主人公が親しみやすいキャラ・境遇だったってのが大きいと思います。主人公は出世コースを外れて蘇り課という胡散臭い名前の課に配属されてしまい、死んだ町を蘇らせるために頑張り、モンスタークレーマーのような住民にひたすら振り回されていきます。

表紙とタイトルからだと重苦しい展開ばかりに思えますが、この主人公の不運の連続が、地の文や会話文の真面目さに反してコメディっぽく面白い。

なんでしょうね、市役所職員が主人公だと妙にコメディ感が出るんですかね?

昔、「県庁の星」っていう織田裕二主演で映画化された作品もありましたが、あれもなんか主人公が苦労しまくっていてそれが妙に面白かったし。

あと、部下の新人が危なっかしく、上司の課長はサボり魔っていうのも主人公のコメディ的な不幸属性を加速させていてハマっていました。

舞台設定が細かく、世界観に入り込める

今作は過去作の「王とサーカス」のように、作品の舞台設定をかなり細かく描いています。

市の成り立ち、町おこしの対象である蓑石の歴史、蓑石の地形や風土などなど。ここらへんのバックグラウンドがしっかりしているので、かなり情景を思い浮かべやすかったです。

作品の舞台である蓑石は架空の町なわけですが、作品を読んでいる最中は実際にそういう町があるんじゃないかって気がしました。もしかしたらモデルにした廃村もあるのかもしれない。今作はあとがきが無かったので、そこらへんの取材関係の裏話が載っていなかったのが少し残念なくらいでした。

ミステリーとしては一章が特に良かった

謎解き的な面白さは個人的には一章が一番気に入りました。描写のほとんどが伏線になっていて、全てが繋がる感じが凄い。ほかの章もお話的には面白いんですけど、一章と比べると謎解きはけっこう無理やりかなと。

作品としてのオチの部分は、ネタバレになるので詳しくは書きませんが「町おこしの悲劇」を描いた今作のテーマをそのまま持ってきているので納得できました。

今作は各章でお話が完結していて、終章で各章で張った伏線を回収して作品全体のテーマもしっかり収めている完成度の高い作品だったと思います。

ドラマ化・映画化すると面白そう

「県庁の星」の話をして思いましたけど、今作はかなり映像化向きの作品じゃないかなぁ~。撮影の難しい派手なアクションがないので、どっちかと言えばドラマ向きなんですかね。短編形式ですし、五週連続放送みたいなのが合ってそう。というか、そろそろ過去作からでいいんで米澤穂信作品のアニメ化とかないんですかね……。

最後に

久しぶりに米澤穂信作品を読んでまた文章を書くモチベーションが上がってきました。やっぱ良い作品を読むと自分も何か書きたくなりますね。今後の米澤穂信作品にも期待しています。

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